
「なんとなく気持ちいいコード進行は作れるけど、なぜそう聴こえるのか説明できない」「コード進行がワンパターンになりがちで、もっと感動的な展開を作りたい」。楽器経験があり、DAWを触り始めたあなたが、今まさにそんな壁にぶつかっているのではないでしょうか。独学で情報を集めても、知識が断片的になりがちで、「本当にプロになれるのだろうか…」と不安に感じることもあるかもしれません。この記事では、そんなあなたの悩みを解決する鍵となる「コードの機能」について徹底的に解説します。コード一つひとつが持つ「役割」を理解すれば、なぜその進行が心地よいのかが分かり、感覚だけに頼らず自由自在に人の心を動かすコード進行を組み立てられるようになります。音楽理論という強力な武器を手に入れ、あなたの作曲レベルを次のステージへ引き上げましょう。
すべてのコードには役割がある!物語としてのコード進行「機能和声」とは?
私たちが普段何気なく聴いている音楽のコード進行には、実は一定の「流れ」や「お約束」が存在します。それは、コード一つひとつが持つ「機能(ファンクション)」に基づいています。機能とは、コードが持つ「役割」や「性格」のようなものだと考えてください。この機能を理解することが、説得力のあるコード進行を作るための第一歩です。
コードの機能は、大きく分けて以下の3種類に分類されます。
- トニック (Tonic):安定、安心、終着点
- サブドミナント (Subdominant):展開、やや不安定、旅立ち
- ドミナント (Dominant):緊張、不安定、クライマックス
これらの機能を、一つの「物語」に例えると非常に分かりやすくなります。穏やかな日常(トニック)から、新たな冒険へ旅立ち(サブドミナント)、最大の盛り上がりを迎え(ドミナント)、そして再び平穏な日常へと帰ってくる(トニック)。この「T → SD → D → T」という流れが、コード進行における王道のストーリー展開なのです。
物語の主役「トニック(T)」 – 安定と終着点
トニックは、コード進行における「家」や「故郷」のような存在です。最も安定していて、落ち着いた響きを持ちます。曲の始まりや終わりに使われることが多く、聴き手に安心感や解決感を与えます。どんなに冒険(展開)をしても、最後にはこのトニックに帰り着きたくなる、そんな中心的な役割を担っています。
Cメジャーキーの場合、代表的なトニックコードは「Cメジャー」です。この音が鳴ると、心がすっと落ち着くような感覚になるはずです。
展開を生み出す「サブドミナント(SD)」 – 旅の始まり
サブドミナントは、トニックの安定した状態から少しだけ離れ、物語に変化や展開をもたらす機能です。いわば「冒険への旅立ち」や「寄り道」のような役割です。トニックほどの安定感はありませんが、ドミナントほどの強い緊張感もありません。自由な雰囲気を持っており、トニックにもドミナントにも進むことができる、コード進行の選択肢を広げる重要な存在です。
Cメジャーキーでは、「Fメジャー」が代表的なサブドミナントコードです。トニックからサブドミナントに移ると、少しだけフワッとした、どこかへ向かっていくような雰囲気が生まれます。
緊張感のピーク「ドミナント(D)」 – 物語のクライマックス
ドミナントは、3つの機能の中で最も不安定で、強い緊張感を持つ機能です。物語で言えば、クライマックスのシーン。この緊張感は、次に「安定したトニックに戻りたい!」という強い欲求を生み出します。この「ドミナント→トニック」という動きは、音楽における最も強力な進行感を生み出し、「解決」というカタルシスを聴き手にもたらします。
Cメジャーキーの代表的なドミナントコードは「Gメジャー(特にG7)」です。G7に含まれる「シ」と「ファ」の音(トライトーン)が、この強烈な緊張感の正体です。(このトライトーンの解決については、より高度なトピックなので別の機会に詳しく解説します。)
ダイアトニックコードを3つの機能に分類しよう
さて、3つの基本的な機能が分かったところで、今度はCメジャーキーのダイアトニックコード(そのキーの音階だけで作られる基本的なコード群)を、それぞれの機能に分類してみましょう。「主要三和音」と呼ばれるC(I)、F(IV)、G(V)以外にも、仲間がいるのです。
主要三和音だけじゃない!代理コードという考え方
他のダイアトニックコードも、主要三和音(トニック、サブドミナント、ドミナント)と構成音が似ているものは、同じ機能を持つ「代理コード(代理和音)」として使うことができます。代理コードを使うことで、同じ機能のままでもコード進行の響きにバリエーションを持たせ、より豊かな表現が可能になります。
コードの機能を分類する基本的な考え方は「構成音がどれだけ似ているか?」です。では、具体的に見ていきましょう。
【Cメジャーキーのダイアトニックコード】
I: Cmaj7
II: Dm7
III: Em7
IV: Fmaj7
V: G7
VI: Am7
VII: Bm7(♭5)
トニックの仲間たち (IIIm7, VIm7)
最も安定した「家」であるトニック。その代理を務めることができるのは、IIIm7 (Em7) と VIm7 (Am7) です。
- IIIm7 (Em7): I (Cmaj7)の構成音「C, E, G」のうち、「E, G」という2音を共有しています。
- VIm7 (Am7): 同じくI (Cmaj7)の構成音「C, E」を共有しています。特にVIm7は、トニックの代理として非常にポピュラーで、メジャーキーなのに少し切ない雰囲気を出すことができます。
【トニック機能のコード】: Imaj7, IIIm7, VIm7
サブドミナントの仲間 (IIm7)
物語の展開を作るサブドミナント。その代理はIIm7 (Dm7) です。
- IIm7 (Dm7): IV (Fmaj7)の構成音「F, A, C」のうち、「F, A, C」を共有しており、響きが非常に近いです。J-POPなどでも頻繁に使われる「ツーファイブ(IIm7→V7)」という進行は、このIIm7がサブドミナントの代理として機能している代表例です。
【サブドミナント機能のコード】: IVmaj7, IIm7
ドミナントの仲間 (VIIm7-5) – 少し特殊な存在
強い緊張感を持つドミナント。その代理にはVIIm7(♭5) (Bm7(♭5)) が分類されます。
- VIIm7(♭5) (Bm7(♭5)): V7 (G7)の構成音「G, B, D, F」のうち、「B, D, F」という3音も共有しており、ドミナントの持つ不安定な響きを持っています。ただし、響きが非常に不安定であるため、ポップスで使われる頻度は他の代理コードに比べてやや低めです。
【ドミナント機能のコード】: V7, VIIm7(♭5)
コード進行の文法「ケイデンス(終止形)」をマスターする
コード機能の理解をさらに深める上で欠かせないのが「ケイデンス」の知識です。ケイデンスとは、日本語で「終止形」と訳され、コード進行の「区切り」や「結び」の形を指します。文章に句読点があるように、音楽にもケイデンスがあることで、フレーズのまとまりが生まれ、聴き手は自然な流れとして音楽を認識することができます。
ここでは代表的なケイデンスをいくつかご紹介します。これを覚えるだけで、あなたの作るコード進行が格段に「音楽的」になります。
最も強い解決感「ドミナント・ケイデンス (D→T)」
V → I (ドミナント → トニック) の進行です。最も強い進行感と解決感を持つ、まさに「王道」のケイデンス。曲の終わりや、セクションの締めくくりに使うと、非常に強い終止感が得られます。「終わったー!」という感覚が最も強い形です。
柔らかな解決感「サブドミナント・ケイデンス (SD→T)」
IV → I (サブドミナント → トニック) の進行です。こちらはドミナント・ケイデンスほどの強烈な解決感はなく、より穏やかで柔らかな印象を与えます。「アーメン終止」とも呼ばれ、賛美歌などでよく聞かれる荘厳な響きが特徴です。
曲の途中で一息つく「ハーフ・ケイデンス (→D)」
任意のコード → V (ドミナント) で終わる進行です。ドミナントで終わるため解決はせず、「まだまだ続きますよ」という余韻を残します。文章で言えば「読点(、)」のような役割で、フレーズの途中で一息つきたい時に有効です。
ちょっと意外な展開「ディセプティブ・ケイデンス(偽終止)」
V → VIm (ドミナント → トニックの代理コード) という進行です。V7まで来て「次はI (トニック)で解決するぞ!」と聴き手に思わせておきながら、予想を裏切って代理コードのVImに着地するテクニックです。期待を裏切ることで、切ない雰囲気を生み出したり、曲の展開をさらに引き延ばしたりする効果があります。AメロからBメロへ移る際など、完全に終わった感じを出さずにセクションを繋ぎたい時に非常に有効です。
なぜ独学ではコード機能の理解が難しいのか?
ここまで読んでみて、「覚えることが多くて大変だ」と感じたかもしれません。まさに、そこが独学の壁となりやすいポイントです。コード機能やケイデンスといった音楽理論は、一つひとつの知識をただ暗記するだけでは、なかなか実践で使えるようにはなりません。
独学では、どうしてもインターネット上の断片的な情報を集めることになりがちです。しかし、音楽理論は本来、段階を踏んで体系的に学ぶことで、初めてそれぞれの知識が有機的に結びつき、生きたスキルとして身につきます。 なぜドミナントはトニックに進みたくなるのか、なぜ代理コードが成立するのか、その「なぜ?」という根本を理解するには、音階(スケール)や音程(インターバル)といった、より基礎的な知識が土台として必要不可欠なのです。
また、理論は頭で理解するだけでなく、実際に音を鳴らし、その響きを耳で感じながら学ぶことが極めて重要です。「ドミナントの緊張感」や「偽終止の切なさ」は、言葉で説明を読むだけでは決して本当の意味で理解できません。DAWでコードを打ち込み、自分の耳で確かめ、時にはピアノで弾いてみる。そうした実践を通じて、理論と感覚が結びついていくのです。
JBG音楽院では、音楽の土台となる基礎理論から応用までを無駄なく学べる「段階学習カリキュラム」を導入しています。独学では繋がりが見えにくい知識の数々を、プロの視点で整理し、着実にステップアップできる道筋を提示します。講義で学んだ理論をすぐに課題として実践し、講師からのフィードバックで修正していく「反転学習」のサイクルで、あなたの弱点を確実に克服していきます。
まとめ:コードの「機能」を理解し、作曲の自由を手に入れよう
今回は、コード進行の土台となる「コードの機能」について解説しました。最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。
- コードには大きく分けて「トニック(安定)」「サブドミナント(展開)」「ドミナント(緊張)」の3つの機能がある。
- この3つの機能が、コード進行という「物語」の骨格を作っている。
- 主要なコードだけでなく、構成音が似ている「代理コード」を使うことで、表現の幅が大きく広がる。
- 進行の区切りとなる「ケイデンス(終止形)」を理解することで、より音楽的なフレーズが作れるようになる。
コードの機能を理解することは、単にルールを覚えることではありません。それは、あなたが伝えたい感情や作りたい雰囲気を、より的確に、そして自由自在に表現するための「言葉」を学ぶことと同じです。これまで感覚的に「気持ちいい」と感じていた進行の理由が分かれば、これからは意図的にその「気持ちよさ」を設計できるようになります。
まずは、あなたの好きな曲のコード進行を分析し、「ここはトニックだな」「ドミナントからトニックに解決して気持ちいいんだな」と考えてみることから始めてみてください。その小さな一歩が、あなたの作曲家としての大きな飛躍に繋がるはずです。
また、今回の記事で解説した内容は、JBG音楽院の公式YouTubeチャンネルの動画で、さらに詳しく学ぶことができます。動画では、実際にピアノの音を聴きながら、図解や譜面を用いて各コードの響きの違いや進行の流れを体感的に理解することができます。テキストと合わせてご覧いただくことで、より深く、そして感覚的にコードの機能をマスターできるはずです。ぜひチェックしてみてください。
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