他人のコード譜を眺めていて、キーにないはずのセブンスコードが混ざっているのを見つけたことはないでしょうか。Cキーの曲なのに E7 が出てくる。理屈が分からないまま、響きが良いので真似してみる。自分の曲に入れてみると、今度はそこだけ浮いて聞こえる。
セカンダリードミナントは、次に進みたいコードを一時的な行き先とみなして、そのコードへの V7 を手前に入れる技法です。Cキーで使えるのは5つ。行き先の5度上に7thコードを積むだけで作れます。作るのは簡単です。難しいのは使い方のほうで、どこに入れるか、いくつ入れるか、入れて変になったときにどう直すかで詰まります。
調べても答えがそろわない技法でもあります。Yahoo!知恵袋には「いろんな参考本や人に質問しても答えがバラバラでよくわかりません」という質問があり、回答者自身も混乱の原因を参考書と説明者の言葉不足だと書いています。ここでは定義を最短で済ませ、運用のほうに紙面を使います。
目次
セカンダリードミナントとは、次のコードを一時的な行き先に見立てたV7
トニック以外のコードを一時的な行き先とみなし、そこへ向かう V7 を手前に置くのがセカンダリードミナントです。
キーの中で最終的に落ち着く場所は、本来はトニックだけです。そこに別の行き先を一時的に作るので、キーの外の音が入り、その部分だけ響きが立ちます。
Cキーで考えます。Cメジャースケールの音は C・D・E・F・G・A・B の7つで、そこから作れる7つのコードがダイアトニックコードです。このうち、行き先になれるコードは5つあります。
| 行き先 | 手前に置くコード | 構成音 | キーの外から入る音 |
|---|---|---|---|
| Dm(II) | A7 | A・C♯・E・G | C♯ |
| Em(III) | B7 | B・D♯・F♯・A | D♯・F♯ |
| F(IV) | C7 | C・E・G・B♭ | B♭ |
| G(V) | D7 | D・F♯・A・C | F♯ |
| Am(VI) | E7 | E・G♯・B・D | G♯ |
7つあるダイアトニックコードのうち、残る2つは C 自身と Bm7♭5 です。C はキーの本来のトニックです。そこへ向かう V7 は G7 で、これは普通のドミナントにあたります。
Bm7♭5 は、この表では扱いません。三和音の部分が減三和音で、そこを一時的な行き先として聴くことができないためです。もうひとつ、Bm7♭5 は Cキーの中ではすでにドミナント側の働きをするコードです。そこへ向かう道を作る動機が薄くなります。理由は次章のトライトーンのところで説明します。半音階的な連鎖の中で F♯7 を置く例はありますが、まず覚える5つには含めないのが一般的です。
表の右端を見ると、B7 だけキー外の音が2つ入ります。ほかの4つは1音です。この差はそのまま、進行に混ぜたときの異物感の強さに出ます。
なお、A7 を V7/II、E7 を V7/VI のように度数で書く表記も一般的です。資料によってはこの書き方しか出てこないので、上の表と対応させて読んでください。
呼び名が資料ごとに違う問題
同じものが二次ドミナント、副次ドミナント、セカンダリードミナントと呼ばれます。D7(V へ向かうもの)だけをドッペルドミナント、ダブルドミナントと区別して呼ぶ流儀もあります。用語がそろわないので、複数の資料を読むと同じ話が別の話に見えます。
定義の幅もあります。クラシックの和声で扱う範囲と、ジャズやポピュラーで扱う範囲は流儀によって違い、連鎖させた使い方をどこまで含めるかも変わります。どちらかが誤りというわけではないので、読んでいる資料がどちらの立場かを見てから読むのが安全です。
作り方は、行き先の5度上に7thコードを積むだけ
行き先のコードのルートから5度上の音を探し、そこをルートにしたドミナントセブンスを作ります。
Am へ行きたいなら、A の5度上は E なので E7 です。この手順だけで5つとも作れます。
キーの中にすでにある III のコード Em を、E7 に書き換える。そう考えると手が動きます。DAW のピアノロール上でやることは、次の2つだけです。
- G を半音上げて G♯ にする
- D を足す

消える音は G の1つだけです。JBG音楽院の授業でも、受講生がここで手を止めることがあります。理屈は分かっても、三度の音を半音上げる操作と、実際に鳴る響きが結びつくまでに少し時間がかかるためです。実際に打ち込んで、変える前と後を続けて鳴らしてみると早く入ります。
なぜ全部セブンスコードなのか
3度と7度の2音が、次のコードへ動く力を持っているからです。
E7 でいえば G♯ と D です。この2音はトライトーン(減5度、裏返して数えると増4度)の関係で、鍵盤の上では鍵6つぶん離れています。この距離の響きが落ち着かないので、耳は次を待ちます。
続けて Am を鳴らすと、その2音が動きます。G♯ は半音上がって A になり、D は C へ下がります。5つとも同じ形で動きます。
| コード | トライトーンになる2音 | 行き先 | 2音の動き |
|---|---|---|---|
| A7 | C♯ と G | Dm | C♯→D(半音上)/G→F(全音下) |
| B7 | D♯ と A | Em | D♯→E(半音上)/A→G(全音下) |
| C7 | E と B♭ | F | E→F(半音上)/B♭→A(半音下) |
| D7 | F♯ と C | G | F♯→G(半音上)/C→B(半音下) |
| E7 | G♯ と D | Am | G♯→A(半音上)/D→C(全音下) |
3度が半音上がって行き先のルートに着く動きは5つで共通です。7度のほうは行き先の3度へ向かい、行き先がメジャーなら半音下、マイナーなら全音下がります。
三和音の E だけでも Am へは進めます。ただし7度の D を足すと動く音が2つになり、行き先の決まり方が強くなります。打ち込むときは、この2音を最後まで鳴らしたまま残してください。7度を省くと引きが弱くなります。
この見方をすると、Bm7♭5 を表から外した理由もはっきりします。Bm7♭5 の構成音 B・D・F・A のうち B と F は、G7 が持っているトライトーンと同じ2音です。Cキーの中で、すでにドミナント側の緊張を担当しているコードだということになります。
コードの機能そのものについては、トニック・ドミナントなどコードの機能の解説にまとめてあります。
逆に、他人の曲を分析する側から見ると判別は簡単です。キーにあるはずのないメジャーコードやセブンスコードが出てきたら、まずセカンダリードミナントを疑います。その次のコードを見て、5度下に着地していれば当たりです。
E7はメジャーコードなのに、なぜ切ない予感がするのか
Cキーの進行に E7 をひとつ置いて、続けて Am を鳴らしてみてください。E7 が鳴った瞬間に、次が明るくないことが分かります。
E7 はメジャーコードなので、単体では明るい響きです。それなのに先の暗さが読めるのは、構成音を1つずつ見ると分かります。

E7 の構成音は E・G♯・B・D で、Cメジャースケールから外れるのは G♯ の1音だけです。そしてこの G♯ は、Aマイナーで導音として使われる音です。ハーモニックマイナー(A・B・C・D・E・F・G♯)にもメロディックマイナーにも現れ、A の半音下から A へ進む位置にいます。
つまり E7 が鳴った時点で、耳はもう A を短調の中心として聴き始めています。明るいコードなのに切なく聞こえるのは、E7 が行き先のマイナーを先に知らせているからです。
同じ見方で5つを分けられます。A7・E7・B7 は行き先がマイナーなので暗さが出て、C7 と D7 は行き先がメジャーなので前へ押し出す力が強く出ます。
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どこに、いくつ入れるか
4小節や8小節が一周して戻る手前、つまり折り返し地点にひとつ置くのが基本です。
ここが効くのは、繰り返しの聞こえ方が変わるからです。同じ4小節をループさせると、2周目の頭は「また戻ってきた」と聞こえます。その手前に行き先を宣言するコードが入ると、同じ場所へ戻るのに「進んで次へ行く」と聞こえます。進行の数を増やさずに展開を作れるのが、この位置の利点です。
置かないほうがいい場所もあります。サビの入り口の直前は、もともと強い進行が置かれていることが多く、そこへ重ねると効果が食い合います。1番と2番の同じ場所に同じものを置くのも、2回目の驚きが消えるので避けてください。
入れ方は2通りあります。
- 挿入は、コードとコードの間に入れる方法です。元の進行を残したいときはこちらを使います。小節が埋まっている場合は、直前のコードを前半2拍に縮めて、後半2拍に置きます
- 差し替えは、もともとあったコードを置き換える方法です。小節数を変えたくないときや、そのコードが元から弱かったときはこちらを使います
迷ったら挿入から試してください。差し替えは元のコードが消えるので、メロディとぶつかる確率が上がります。
数については、JBG音楽院の授業では1曲に2つか3つを目安にしてもらっています。退屈に感じてきた進行に1つ入れるだけで響きが変わるので、まずその1つを体験してもらう順番です。すべての切れ目に入れると、どこが聞かせどころなのか分からなくなります。
実際にどの進行へ入れるかは、手元の曲で試すのが早いです。定番の進行そのものを持っていない場合は、カノン進行・小室進行・王道進行の使い分けから1つ借りて、その4小節目に置いてみてください。
連鎖はどこまで許されるか
A7 の手前に E7、その手前に B7、というように5度ずつさかのぼって連鎖させられます。理論上は回り続けて元のキーに戻れるので、終わりはありません。
ただし、つなげるほど今が何のキーなのかがぼやけます。JBG音楽院では、ポップスのキャッチーさを保つなら2段階までを目安にすると伝えています。意図してキーをあいまいにするのは技法ですが、意図せずぼやけるのは事故です。連鎖させた結果サビの帰ってくる感じが弱くなったなら、1つ減らしてください。
ツーファイブにして滑らかにつなぐ
セカンダリードミナントの手前に、その行き先から見た II のコードを足すと、2小節かけて行き先へ近づけられます。
E7 → Am なら、手前に Bm7♭5 を置いて Bm7♭5 → E7 → Am です。Bm7♭5 の構成音 B・D・F・A はすべてCメジャースケールの中にあるので、キーの外の音は E7 の G♯ まで出てきません。急に臨時記号が来る感じが和らぎます。
この形はジャズのツーファイブワンと同じ仕組みで、セカンダリードミナントに対して作るのでリレーテッドII などと呼ばれます。
ここで Bm7 を選ぶこともできます。Bm7 にすると F♯ が入るので、キーの外の音が1小節早く出ます。そのぶん明るさが残り、Am へ入る手前でマイナーの色が濃くなりすぎるのを避けられます。
注意したいのは、行き先が Dm のときに関係が入れ替わることです。Dm へ向かう A7 の手前は、キーの中に収まるのが Em7、B♭ が入るのが Em7♭5 になります。行き先がマイナーだから常に ♭5、と覚えると外れます。正解は一つではないので、両方鳴らして選んでください。
入れたら浮いたときの直し方
コードだけで聴くと格好いいのに、歌が乗ると濁る。この形で出たときは、まずメロディとの衝突を疑ってください。
直す順番があります。まず、その小節でメロディがいちばん長く伸ばしている音と、拍の頭に来る音を見てください。この2つがコードの構成音か、9th・13th といったテンションに収まっていれば、たいてい濁りません。
E7 の小節でメロディが G を伸ばしていれば、その G が E7 の G♯ とぶつかります。E7(♯9) として意図的に使う響きでもありますが、歌メロで長く伸ばすと濁って聞こえるのが普通です。
ぶつかっているときの選択肢は、次の3つです。
- メロディ側の音を半音動かす
- コードを元のダイアトニックコードに戻す
- 行き先ごと別のコードに変える
作曲の段階なら、メロディを優先してコードを戻すほうが結果は良くなります。行き先ごと変えるのは、その先の進行までまとめて作り直せるとき、つまりアレンジの早い段階だけです。
もうひとつ多いのが、解決先を用意していないケースです。知恵袋にも「D7 の後に必ず G を置くべきか、置かない場合はダイアトニックに戻すべきか」という質問があります。原則は、宣言した行き先へ進むことです。D7 を置いたのに G 以外へ進むと、聴き手の予想が外れたまま次へ行くことになります。外すこと自体は技法として存在しますが、まずは行き先へ着地させてから、外す形を試してください。
コードでもメロディでもないのに浮く場合は、キー全体が定まっていないことがあります。その場合は連鎖のさせすぎを先に疑ってください。
まとめ
Cキーで作れるセカンダリードミナントは、A7・B7・C7・D7・E7 の5つです。
行き先の5度上に7thコードを積めば作れます。Bm7♭5 は、まず覚える5つには含めません。
入れる場所は進行の折り返し地点、数は1曲に2つか3つ。連鎖は2段階まで。浮いたときは、その小節でメロディが伸ばしている音がコードの構成音に入っているかを最初に確認します。
セカンダリードミナントが入るようになると、次はリレーテッドII、裏コード、リハーモナイズと、コードを差し替えて曲の表情を作る技法がひとつながりで見えてきます。JBG音楽院の授業でも、この順番で進みます。
その次に来る裏コードでは、この記事で見たトライトーンがそのまま鍵になります。G7 と D♭7 は F と B という同じ2音を共有していて、だから片方をもう片方に置き換えても行き先が変わりません。
V7/II のような度数表記でつまずいた場合は、ディグリーネームの仕組みに戻ると、この記事の表もほかの資料も読みやすくなります。
よくある質問
セカンダリードミナントと二次ドミナントは違うものですか。
同じものです。副次ドミナントという呼び方もあります。V へ向かう D7 だけをドッペルドミナント、ダブルドミナントと呼び分ける流儀もありますが、指しているコードは同じです。
Cキーで作れるセカンダリードミナントはいくつですか。
A7・B7・C7・D7・E7 の5つで、それぞれ Dm・Em・F・G・Am へ向かいます。トニックの C へ向かうものは通常のドミナント G7 なので、この5つには含めません。Bm7♭5 は、まず覚える5つには含めません。
必ず5度下のコードへ進まないといけませんか。
原則は、宣言した行き先へ進みます。5度下に進むというのは完全4度上に進むのと同じ動きで、教則本の例もほぼこの形です。行き先の代理コードへ進む形もありますが、まず基本形で着地させてから試すほうが、外した効果も分かります。
マイナーキーの曲でもセカンダリードミナントは使えますか。
使えます。考え方は同じで、そのキーのダイアトニックコードのうち行き先になれるものを選び、その5度上にドミナントセブンスを作ります。
セカンダリードミナントを入れると曲が転調してしまいませんか。
1つ2つ入れる程度なら転調にはなりません。一時的にキー外の音が鳴るだけで、行き先はキーの中のコードだからです。ただし5度ずつ連鎖させると、どこが本来のキーか分かりにくくなります。
自分の曲に入れてみて、うまく決まらない箇所が残る場合は、詰まっているのがコードの選び方なのか、メロディとの噛み合わせなのかを先に切り分けておくと、次にやることが決まります。