曲を作ってみたい。DAWを入れて、起動して、空のトラックの前で手が止まる。調べてみると、ある人はコードから決めろと言う。別の人はメロディが先だと言う。理論はいらないという人もいれば、まず耳コピしろという人もいる。読むほど分からなくなって、その日は何も作らないままDAWを閉じる。よくある話です。
作曲のやり方がこれほど食い違って見えるのは、多くの説明が「作曲」と「編曲」と「ミックス」を1本の手順につないでいるからです。この3つは別の作業で、必要な判断も、つまずく場所も違います。作曲だけを取り出せば、何から始めるかは決まります。好きな曲を1曲ぶん解体して、コードを4つ並べ、その上にメロディの形を決める。ここまでが作曲です。
その作曲の部分だけを、最初から最後まで通します。JBG音楽院の授業で使っている考え方をつないで書いているので、上から順に進めれば、サビまでの骨組みは形になります。
目次
作曲・編曲・ミックスは、別の作業です
曲ができるまでの作業は、作曲・編曲・ミックスの3つに分かれます。それぞれ決めることも、つまずく場所も違います。
- 作曲は、メロディとコードと曲の並びを決める作業です
- 編曲は、楽器を選んで鳴らし方を作る作業です
- ミックスは、音量と左右の位置と質感を整える作業です
この分け方を先に置くのには理由があります。作った曲を再生して「なんだかショボい」と感じるとき、その原因の多くは、編曲とミックスの側にあります。メロディもコードも悪くないのに、音が薄く、輪郭がぼやけて聞こえる。それを作曲の失敗として受け取ってしまうと、直す必要のない場所を何度も書き直すことになります。
手順を解説した記事の多くは、この3つを一続きのステップに並べています。後半にアレンジとミックスが来る形です。並べ方としては筋が通っていますが、最初の1曲で全部を通そうとすると、判断する項目が多すぎて止まります。
JBG音楽院のカリキュラムも、この分け方でできています。最初のCORE課程では、音楽理論と聴音、鍵盤を並行して進めます。DAWであるLogicの操作に入るのは第12回からで、前半の11回は作曲そのものに使う土台に充てています。曲を作ることと、音を鳴らすことを、別々に身につける順番です。
手順の説明が人によって違うのはなぜか
書いている人の入口が、それぞれ違います。ギターを弾く人はコードから入り、歌う人はメロディから入ります。
どちらも本人にとっては正解で、自分がやってきたやり方を書いているだけです。矛盾しているように見えて、対立はしていません。
この混乱は、実際に検索している人が言葉にしています。Yahoo!知恵袋には「色々調べたら全員言ってることが違って、ある人は『曲をコピーしまくれ』またある人は『何曲も作ってくうちに学べ』」という質問があります。機材も揃っていて楽器も弾ける人が、情報の食い違いだけで動けなくなっている状態です。
入口は、自分がやりやすいほうで構いません。鍵盤やギターが触れるならコードから、鼻歌が出てくるならメロディから始めてください。どちらも今はないという場合は、次章の解体から始めます。
この記事はコードから入る順番で通します。鼻歌が先に出た人は、まずスマホに録っておいてください。そのうえで、コードを付けるところから合流できます。どちらの入口でも、コードとメロディの関係を見る作業は同じです。
なお、メロディ先行とコード先行それぞれの弱点をもう少し細かく知りたい場合は、作曲の順番でメロディとコードがバラバラになる原因にまとめてあります。ここでは入口の選び方までにとどめて、先へ進みます。
最初にやるのは、好きな曲を1曲ぶん解体すること
白紙から始めないために、まずやることは、好きな曲を1曲選んで、その中で何が鳴っているかを聴き取ることです。
作りたいものの見本が手元にある状態になります。ゼロから思いつかずに済みます。
JBG音楽院の公式YouTube「【DTM/作曲】初心者はまず〇〇から始めてみよう!」でも、最初にやることとして耳コピを挙げています。理由のひとつが曲の並びです。1曲を丸ごとやると曲の構成が分かる、最近の曲は2番の頭に1番とは違うセクションが入ることが多いと話しています。断片を眺めているだけでは気づけない部分です。
ひとつ注意があります。同じ動画の中で、既存曲の音をそのまま再現するのは難しいとも話しています。ドラムのキックもスネアもピアノの音色も、原曲とは違うものを使うことになるからです。ここでの目的は、中身を把握することです。音を似せるのは後回しで構いません。
何を聴き取るのか
すべてを完璧に採る必要はありません。次の5つが分かれば、作曲を始めるには十分です。
- 曲の並び(イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏がどの順で来るか)
- 鳴っている楽器の種類と数
- ベースが鳴らしている音(いちばん低いところで動いている音)
- コード進行
- テンポ
楽器の種類とテンポは、本来は編曲で使う情報です。ただしこの後でコードを並べるときにテンポをそのまま流用できるので、いま一緒に拾っておきます。
先ほどの動画では1曲を仕上げるところまで勧めていますが、ここでは作曲の準備に絞ります。完璧に採ろうとして止まるくらいなら、粗いままで先へ進んでください。
コードは、キーの中の何番目かで書き取る
JBG音楽院の授業では、コードをキーの中の何番目かで捉えます。CメジャーキーならC=Ⅰ、Am=Ⅵm、F=Ⅳ、G=Ⅴ。この書き方をディグリーネームと呼びます。
このとき、mが付くかどうかまで一緒に書き取ってください。CメジャーキーのⅥは短三和音なので、Ⅵとだけ書くとAメジャーを弾いてしまいます。
この形で持っておくと、そのままキーを移せます。ある曲で覚えた進行が、別のキーの曲でも同じ形として見えます。コードネームのまま覚えると、キーが変わるたびに別の進行に見えてしまい、覚えた数だけしか使えません。
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コードを4つ置いて、その上にメロディの形を決める
ここから実際に音を置きます。コードを4つ並べてループさせ、その上でメロディを決める、という順番です。
まずコードを4つ
解体した曲から進行を借りて構いません。ありふれたコード進行そのものは創作性がないとされ、同じ進行のヒット曲はいくらでもあります。
ただし借りるのは進行だけにしてください。JBG音楽院の授業でも、コードを借りるならメロディは変える、メロディのリズムを借りるならコードを変える、と伝えています。両方を借りると元の曲に聞こえます。
4つのコードを1小節ずつ置いて、2周させてください。これで8小節です。テンポは解体した曲のものをそのまま入れておいて構いません。
手元に解体した曲がない場合は、カノン進行・小室進行・王道進行の使い分けから1つ借りても進みます。
この段階で音色を選び始めないでください。ピアノ1音色のままで進めます。音を選ぶのは編曲の作業なので、ここでは触りません。
メロディは「形」から決める
JBG音楽院の授業では、メロディを1音ずつ探す前に、メロディ全体がどう動くかの形を決めます。上がっていく、下がっていく、山なり、谷なり、平らのまま。この5つから選びます。
形が決まったら、始まりの音と終わりの音を、そこで鳴っているコードの構成音から選びます。Cのコードなら、ド・ミ・ソです。
あいだの音は、キーのペンタトニックから選びます。Cメジャーなら、ド・レ・ミ・ソ・ラの5音です。キーの7音からファとシを抜いた形で、この2音がコードとぶつかりやすいため、抜いておくと濁りません。
始まりと終わりに選んだ構成音が、この5音の外に出ることはあります。Fのコードならファがそうです。その場合は始まりと終わりだけ例外として置いて、あいだは5音で埋めてください。
この順番だと、何もないところからメロディを探さずに済みます。決めるのは形と、2つの音と、あいだの埋め方だけです。
「メロディが作れない」は、2つの問題が混ざっている
授業では、メロディをリズムと音の高さの2つに分けて扱います。分けてしまえば、リズムだけ先に作って音の高さを後から乗せることも、音の高さを保ったままリズムだけ差し替えることもできます。
作ったメロディが単調に聞こえるとき、原因はたいてい片方だけです。音の高さが動いていないのか、リズムが同じ形の繰り返しになっているのかを、先に切り分けます。両方を同時に直そうとすると、どちらが効いたのか分からなくなります。
8小節を、サビまで伸ばす
8小節ができたら、同じ形に変化をつけて次のセクションを作ります。ここで曲の形になります。
変化をつける場所は決まっています。
- 音の高さの範囲を変える
- リズムの細かさを変える
- 音を隣へ動かすか、離れたところへ飛ばすかを変える
Aメロとサビでこれらが同じだと、どこが山なのか聴き手に伝わりません。逆に、サビで音域を上げてリズムを細かくすれば、それだけで山になります。
ただし、全部を新しいフレーズにするのは行きすぎです。同じ形が何度か戻ってこないと、聴いた人は覚えられません。最初の2小節をそのまま繰り返す、後ろの音だけ変える、といった反復を残しておきます。
授業では、サビのいちばん高い音をどこに置くかを先に決めることがあります。到達点が決まると、そこへ向かうまでの動きが自然に決まるためです。手前から順に埋めていくより速く進みます。
ここまで来ても次のセクションが浮かんでこない場合は、メロディが思いつかないときに使える考え方を挟んでください。
それでも1曲が終わらないとき
完成しない原因として多いのは、作る作業と直す作業を同時にやっていることです。
同じ4小節を作っては直し、また作っては直しを繰り返すと、いつまでも直す対象が増えません。
先に最後まで雑に通してください。粗いままで構わないので、頭から終わりまで並べてしまう。直すのはそのあとです。順番は入れ替えても構いません。冒頭で詰まったら、先にサビを作ってから戻る形でも進みます。
どのくらいかかるかを先に見ておくと楽になります。仕事の後に手を付けるなら、最初の1曲は月単位で考えておいたほうが気が楽です。
最初から3分のフル尺にする必要もありません。1コーラス分、つまりAメロからサビまでが一度通るところまでで切り上げても、完成は完成です。
もうひとつ、自分が飽きたかどうかは判断材料になりません。作り手は同じループを何十回も聴きますが、聴き手は曲の流れの中で一度しか通りません。退屈に感じたからといって作り直すと、判断の基準が自分の再生回数のほうに寄ってしまいます。
手が完全に止まってしまったときは、作るのを一度やめて解体に戻るのも手です。聴き取りをもう少し踏み込んでやる方法は、楽曲分析のやり方にまとめてあります。知っている進行やパターンが増えると、次に置く音を決めやすくなります。
まとめ
作曲のやり方は、次の順番で進めれば決まります。編曲とミックスに入る前に、ここまでを終わらせます。
- 作曲・編曲・ミックスを分ける。今回やるのは作曲だけと決める
- 好きな曲を1曲選び、並び・楽器・ベース・コード・テンポを聴き取る
- コード進行を、キーの中の何番目か(ディグリーネーム)で書き取る。mの有無も一緒に
- コードを4つ、1小節ずつ置いて2周させる。これで8小節(音色はピアノのままでよい)
- メロディの形を5つから選び、始まりと終わりの音をコードの構成音から決めて、あいだをキーのペンタトニックで埋める
- 8小節に変化をつけて次のセクションを作る。反復は残す
- 粗いまま最後まで通してから直す
手順の説明が人によって違って見えても、入口が違うだけです。自分がやりやすいほうから始めて、作曲の部分だけを先に終わらせる。そこまで来ると、次に必要なのが編曲なのかミックスなのか、自分で判断できるようになります。
よくある質問
作曲は何から始めればいいですか。
コードを4つ並べるところから始めてください。好きな曲から進行を借りてきて、ピアノの音でループさせます。その上に乗せるメロディを決めるところまでが作曲です。楽器選びや音作りは編曲の作業なので、後ろに回して構いません。
楽器が弾けなくても作曲できますか。
できます。コードを4つ並べてループさせるところは、打ち込みでできます。ただし鍵盤に触れると、コードの構成音とメロディの関係が目で見えるようになるため、進みは速くなります。JBG音楽院で鍵盤を扱うのも、作曲の判断を速くするためです。
音楽理論は先に勉強すべきですか。
全部を終えてから作り始める必要はありません。ただし「理論はいらない」も言いすぎです。ここに出てくるディグリーネーム・コードの構成音・ペンタトニックは、どれも作る手が止まらないために使っています。作りながら、詰まった場所の分だけ足していくのが現実的です。
メロディとコード、どちらから作るのが正解ですか。
正解はありません。自分がやりやすいほうから始めてください。鍵盤やギターが触れるならコードから、鼻歌が出るならメロディからです。どちらから入っても、コードとメロディの関係を見るところは同じです。
1曲目はどのくらいの長さを目指せばいいですか。
1コーラス分、つまりAメロからサビまでが一度通るところまでで構いません。時間にすると1分前後です。そこまで通っていれば、曲の形は作れています。3分のフル尺は、その次の曲で足せます。
ここまでの手順を進めてみて、自分がどの工程で止まっているのか分からないと感じたら、先に現在地を測っておくと次の一手が決めやすくなります。