
普段私たちが耳にするメロディやハーモニー。その心地よさや美しさには、「音程」という音楽の基本的な仕組みが深く関わっています。音楽理論と聞くと、少し専門的で難しそうだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、音楽を独学で始めたばかりの方や、これから音楽理論に触れてみたいという方に向けて、音楽を理解する上で欠かせない「音程」について、できるだけわかりやすく解説していきます。
音程とは?~メロディとハーモニーの基礎を築くカギ~
まず、「音程 とは何か?」という基本的な問いから始めましょう。音楽の世界における「音程」は、日常会話で使う「音程が良い/悪い」といったニュアンスとは少し異なります。
「音程」と「ピッチ」の違いを整理しよう
普段、歌を歌うときなどに「あの人は音程がいいね」と言うことがありますね。この場合の「音程」は、多くの場合、一つ一つの音の「高さ」が正しいかどうか、つまり「ピッチ」を指しています。例えば、ピアノで「ド」の音を弾いたとき、その音の高さそのものがピッチです。
一方、音楽理論で言う「音程(インターバル)」とは、2つの音の高さの「へだたり」や「距離」のことを指します。例えば、「ド」の音と「ミ」の音、この2つの音がどれだけ離れているか、その関係性を示すのが音程なのです。メロディが滑らかに聴こえるか、それとも跳躍しているように聴こえるか、あるいは和音が明るく響くか、切なく響くか、そういった音楽の表情は、この音程によって大きく左右されます。
音程を表す単位「度」
2つの音の距離は、「度(ディグリー)」という単位を使って表します。これは、基準となる下の音を「1度」として、そこからどれだけ離れているかを数えるものです。例えば、
- ドとド(同じ音)→ 1度
- ドとレ → 2度
- ドとミ → 3度
- ドとファ → 4度
- ドとソ → 5度
- ドとラ → 6度
- ドとシ → 7度
- ドと高いド(オクターブ上のド)→ 8度
というように数えます。楽譜上では、基準の音がある線(または間)から、もう一方の音が何本目の線(または間)にあるかを見て判断します。例えば、基準の音が第1線にある「ミ」で、もう一方の音が第2間にある「ソ」なら、ミ(1度)→ファ(2度)→ソ(3度)で「3度」となります。
音程の基本となる5つの種類
音程は、その響きの性質によっていくつかの「種類」に分けられます。まずは、基本となる5つの種類とその特徴を理解することが、音程を学ぶ上での第一歩となります。
まずは覚えよう!音程の基本的な種類
音程には、大きく分けて以下の5つの基本的な種類があります。
- 長音程 (ちょうおんてい):英語では Major (メジャー) と言い、記号では「M」または「長」と表記します。明るく、開放的な響きを持つことが多いです。
- 短音程 (たんおんてい):英語では minor (マイナー) と言い、記号では「m」または「短」と表記します。少し影のある、切ない響きや落ち着いた響きが特徴です。
- 完全音程 (かんぜんおんてい):英語では Perfect (パーフェクト) と言い、記号では「P」または「完」と表記します。非常に安定していて、調和のとれた響きを持ちます。
- 増音程 (ぞうおんてい):英語では Augmented (オーギュメント) と言い、記号では「aug」または「増」と表記します。元の音程より半音分広がった、少し緊張感のある響きです。
- 減音程 (げんおんてい):英語では diminished (ディミニッシュ) と言い、記号では「dim」または「減」と表記します。元の音程より半音分狭まった、こちらも不安定で解決を求めるような響きを持ちます。
これらの響きの違いを感じ取れるようになると、音楽を聴く楽しみがさらに深まります。例えば、メジャーキーの曲は長音程が多く使われ明るい印象に、マイナーキーの曲は短音程が効果的に使われ切ない印象になる、といった具合です。
度数と種類の組み合わせルール ~どの数字にどの種類がつく?~
先ほど学んだ「度」と、今紹介した「種類」。これらは特定の組み合わせで使われます。ここが少しややこしく感じるかもしれませんが、ルールはシンプルです。
- 長音程 (Major) または 短音程 (minor) で表される度数:2度、3度、6度、7度
- 完全音程 (Perfect) で表される度数:1度、4度、5度、8度
つまり、「長4度」や「完全3度」といった組み合わせは基本的には存在しません(例外的な変化は後述します)。このグループ分けは非常に重要なので、しっかりと覚えておきましょう。なぜこのようなグループ分けになっているかというと、歴史的な協和度の違いや音響学的な特性が関わっていますが、まずは「そういうルールなのだな」と受け止めて先に進みましょう。
長音程・短音程・完全音程を見分ける具体的な方法
では、実際に2つの音を見て、それが「長3度」なのか「完全5度」なのか、どのように見分ければよいのでしょうか。その鍵を握るのが「半音」の数です。
理解の土台となる「半音」と「全音」
ピアノの鍵盤を思い浮かべてみてください。白い鍵盤(白鍵)と黒い鍵盤(黒鍵)がありますね。
- 半音:鍵盤上で隣り合っている音同士の最小の距離です。例えば、「ド」と「ド♯(黒鍵)」、「ミ」と「ファ(白鍵同士)」、「シ」と「ド(白鍵同士)」などが半音の関係です。
- 全音:半音2つ分の距離です。例えば、「ド」と「レ(間にド♯という黒鍵を挟む)」は全音です。
特に、白鍵だけで構成されるCメジャースケール(ドレミファソラシド)の中では、「ミ(E)とファ(F)の間」と「シ(B)とド(C)の間」が半音になっていることを覚えておくのが非常に重要です。この2箇所は、間に黒鍵を挟んでいませんね。
長音程と短音程の判定ルール
2度、3度、6度、7度の音程が「長」になるか「短」になるかは、その2音間に含まれる上記の「ミ-ファ」または「シ-ド」という半音の数によって決まります。
【2度・3度の場合】 (比較的狭い音程です)
- 2音間に「ミ-ファ」も「シ-ド」も含まれない場合 → 長音程
- 例:ド(C) – レ(D) = 長2度 (間に半音なし)
- 例:ド(C) – ミ(E) = 長3度 (間に半音なし)
- 2音間に「ミ-ファ」または「シ-ド」のどちらか1つが含まれる場合 → 短音程
- 例:ミ(E) – ファ(F) = 短2度 (ミ-ファの半音を含む)
- 例:レ(D) – ファ(F) = 短3度 (ミ-ファの半音を含む)
【6度・7度の場合】 (比較的広い音程です)
- 2音間に「ミ-ファ」または「シ-ド」のどちらか1つだけが含まれる場合 → 長音程
- 例:ド(C) – ラ(A) = 長6度 (ミ-ファの半音を1つ含む)
- 例:ド(C) – シ(B) = 長7度 (ミ-ファの半音を1つ含む)
- 2音間に「ミ-ファ」と「シ-ド」の両方が含まれる (合計2つ) 場合 → 短音程
- 例:ミ(E) – ド(C)[オクターブ上] = 短6度 (ミ-ファとシ-ドの半音を2つ含む)
- 例:ソ(G) – ファ(F)[オクターブ上] = 短7度 (シ-ドとミ-ファの半音を2つ含む)
最初は鍵盤をイメージしながら、半音の数を数える練習をしてみましょう。
完全音程の判定ルール
1度、4度、5度、8度の音程は、基本的に「完全」となります。こちらも半音の数が関係しますが、少しルールが異なります。
- 1度と8度:
- ド(C) – ド(C) (同じ音) → 完全1度 (P1)
- ド(C) – ド(C)[オクターブ上] → 完全8度 (P8)
- これらは常に完全音程です。迷うことはありません。
- 4度と5度:
- 白鍵同士で考えた場合、基本的には「ミ-ファ」または「シ-ド」の半音を1つ含むものが完全音程になります。
- 例:ド(C) – ファ(F) = 完全4度 (P4) (ミ-ファの半音を1つ含む)
- 例:ド(C) – ソ(G) = 完全5度 (P5) (ミ-ファの半音を1つ含む)
- 例外的なケース(要注意!):
- ファ(F) – シ(B):これは4度ですが、間に半音が一つも含まれません。そのため、完全4度よりも半音広い増4度 (aug4) となります。
- シ(B) – ファ(F)[オクターブ上]:これは5度ですが、「シ-ド」と「ミ-ファ」の2つの半音を含みます。そのため、完全5度よりも半音狭い減5度 (dim5) となります。
- 白鍵同士で考えた場合、基本的には「ミ-ファ」または「シ-ド」の半音を1つ含むものが完全音程になります。
この増4度と減5度は、どちらも半音6つ分の距離で、鍵盤上では同じ響き(異名同音)に聞こえることがあり、非常に不安定な響きを持つため「トライトーン(三全音)」とも呼ばれ、音楽理論上とても重要な音程です。まずは「F-Bは増4度、B-Fは減5度」と覚えてしまうのが良いでしょう。
さらに豊かな響きへ~増音程と減音程~
長音程、短音程、完全音程が基本ですが、これらの音程が半音単位で広がったり狭まったりすることで、さらに多彩な響きが生まれます。それが「増音程」と「減音程」です。
音程の幅が変化する仕組み
基本となる音程からの変化は、以下のようになります。
- 長音程 が半音広がると → 増音程 (例: 長3度が半音広がると増3度)
- 長音程 が半音狭まると → 短音程 (例: 長3度が半音狭まると短3度) ※これは既出ですね
- 短音程 が半音狭まると → 減音程 (例: 短3度が半音狭まると減3度)
- 短音程 が半音広がると → 長音程 (例: 短3度が半音広がると長3度) ※これも既出
- 完全音程 が半音広がると → 増音程 (例: 完全4度が半音広がると増4度)
- 完全音程 が半音狭まると → 減音程 (例: 完全5度が半音狭まると減5度)
イメージとしては、音程の種類が階段のようになっていると考えるとわかりやすいかもしれません。
(減)← 短 ← 長 →(増)
(減)← 完全 →(増)
矢印は半音の変化を表します。
重増音程・重減音程とは?
さらに変化が進むと、「重増(じゅうぞう)音程」や「重減(じゅうげん)音程」というものも理論上存在します。
- 増音程がさらに半音広がると → 重増音程 (Double Augmented / aug aug または AA)
- 減音程がさらに半音狭まると → 重減音程 (Double Diminished / dim dim または dd)
これらは実際の楽曲で頻繁に使われるわけではありませんが、複雑な和音を分析する際などに出てくることがあります。頭の片隅に置いておくと良いでしょう。
変化記号(♯や♭)がついた音程の考え方
ここまでは主に白鍵同士の音程について考えてきましたが、実際の音楽ではシャープ(♯)やフラット(♭)といった変化記号がたくさん登場します。これらが付くと、音程の計算はどうなるのでしょうか?
ステップ1:まずは幹音(白鍵の音)で考える
変化記号がついた音程を考えるとき、まずは変化記号を一旦無視して、白鍵同士の音(幹音といいます)で音程を判断します。
例えば、「ド♯」と「ソ」の音程を考える場合、まずは「ド」と「ソ」の音程を考えます。ド-ソは完全5度ですね。これが基本の音程になります。
ステップ2:変化記号によって音程の幅がどう変わるか
次に、変化記号が音程の幅にどう影響するかを考えます。ルールは以下の通りです。
- 上の音にシャープ(♯)が付くと → 2音間の距離は広がる
- 上の音にフラット(♭)が付くと → 2音間の距離は狭まる
- 下の音にシャープ(♯)が付くと → 2音間の距離は狭まる(下の音が上がるので、相対的に距離は縮まります)
- 下の音にフラット(♭)が付くと → 2音間の距離は広がる(下の音が下がるので、相対的に距離は広がります)
この「広がる」「狭まる」という変化を、先ほどの基本の音程に適用していきます。
具体例でマスターしよう
いくつかの例で見てみましょう。
- G(ソ)と B♭(シ♭) の音程は?
- まず、G – B(ソ – シ)を考えます。これは白鍵のみで構成され、間に半音(ミ-ファまたはシ-ド)を含まないので、3度の中で最も広い長3度 (M3) です。
- 次に、上の音Bに♭が付いています。上の音に♭が付くと音程は狭まります。
- 長3度が半音狭まると、短3度 (m3) になります。よって、G – B♭ は短3度です。
- E♭(ミ♭)と C(ド)[オクターブ上] の音程は?
- まず、E – C[オクターブ上](ミ – 高いド)を考えます。ミから数えて6番目の音(ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド)なので6度です。この間には「ミ-ファ」と「シ-ド」の2つの半音が含まれるため、6度の中で狭い方、つまり短6度 (m6) です。
- 次に、下の音Eに♭が付いています。下の音に♭が付くと音程は広がります。
- 短6度が半音広がると、長6度 (M6) になります。よって、E♭ – C[オクターブ上] は長6度です。
- B(シ)と F♯(ファ♯)[オクターブ上] の音程は?
- まず、B – F[オクターブ上](シ – 高いファ)を考えます。これは先ほど出てきた例外で、減5度 (dim5) でしたね。
- 次に、上の音Fに♯が付いています。上の音に♯が付くと音程は広がります。
- 減5度が半音広がると、完全5度 (P5) になります。よって、B – F♯[オクターブ上] は完全5度です。
また、少し特殊なケースとして、両方の音に同じ変化記号が付いている場合(例:C♯ – G♯、A♭ – E♭など)は、元の白鍵同士の音程と同じ種類の音程になります。
例えば、C – G は完全5度です。では、C♯ – G♯ はどうでしょう? 両方の音が半音上がっているので、2音間の距離は変わりません。したがって、C♯ – G♯ も完全5度です。同様に、A – E が完全5度なら、A♭ – E♭ も完全5度です。これはコード(和音)を考えるときに非常に便利な知識となります。
さらに、完全1度(同じ音)の場合、例えばCとCは完全1度ですが、CとC♯になった場合、これは距離が半音広がったと考えて「増1度」となります。CとC♭の場合も、C♭はBの音と同じですが、楽譜上CとC♭で書かれていれば、これも完全1度から半音広がったと解釈し(C♭の方が低いので、Cから見るとC♭は「下」に広い)、これも「増1度」と考えるのが一般的です。少しトリッキーですが、覚えておきましょう。
楽譜上の見た目と実際の響き~異名同音(エンハーモニック)の罠~
音楽理論を学んでいると、「異名同音(いめいどうおん)」または「エンハーモニック」という言葉に出会います。これは、名前(楽譜上の表記)は異なるけれど、実際の音の高さ(響き)は同じ、という音の関係を指します。
「ド♯」と「レ♭」は同じ音?
ピアノの鍵盤で考えてみましょう。「ド」の右隣の黒鍵は「ド♯」です。一方、「レ」の左隣の黒鍵は「レ♭」です。この「ド♯」と「レ♭」は、鍵盤上では全く同じ鍵盤を指し、同じ高さの音が鳴ります。これが異名同音の一例です。
しかし、音程を考える上では、楽譜上の表記が優先されます。
例えば、
- 「ド」と「ド♯」の音程:ドとドなので「1度」の関係。完全1度から半音広がっているので「増1度」。
- 「ド」と「レ♭」の音程:ドとレなので「2度」の関係。長2度(ド-レ)から半音狭まっているので「短2度」。
鍵盤上では同じ「ド」と「黒鍵」の響きでも、楽譜の書き方によって音程の度数も種類も変わってしまうのです。
動画の例にあったように、C(ド)から見て鍵盤上A(ラ)の音を鳴らす場合、楽譜で「CとA」と書かれていれば長6度ですが、もし同じ響きを「CとG##(ソのダブルシャープ)」と書いた場合、CとGは5度の関係なので、これは(重)増5度という扱いになります。
なぜ異名同音の理解が大切なのか?
「同じ音ならどっちで書いてもいいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、音楽理論の世界では、調性(キー)や和音の機能(コードの役割)によって、適切な楽譜の表記が求められます。例えば、あるコードの構成音として、理論上「短3度」の音が必要な場合、たとえ響きが同じでも「増2度」の音で表記するのは不適切とされることがあります。
楽譜を正しく読み解き、作曲家が意図した響きや音楽的文脈を理解するためには、この異名同音の概念と、楽譜上の表記ルールを把握しておくことが不可欠です。JBG音楽院では、こうした楽譜の読み解きから、理論を踏まえた実践的な作曲・DTMスキルまで、一人ひとりのレベルに合わせて丁寧に指導しています。
まとめ・結論
今回は、音楽理論の基礎である「音程」について、その定義から種類、具体的な見分け方、そして変化記号や異名同音といった少し発展的な内容まで、詳しく解説してきました。
「音程 とは何か?」それは2つの音の音楽的な距離であり、メロディの表情やハーモニーの色彩感を決定づける、音楽の構成における非常に重要な要素です。音程を理解することで、なぜこのメロディは心に響くのか、なぜこの和音はこんなにも美しいのか、といった音楽の仕組みに一歩近づくことができます。
学習のポイントを改めて整理しましょう。
- まずは長・短・完全・増・減という5つの基本的な音程の種類と、それぞれがどの度数(1~8度)と結びつくかを覚えましょう。
- 次に、ピアノの鍵盤をイメージしながら、2音間に含まれる半音(ミ-ファ、シ-ド)の数を数える練習を重ねましょう。これが長短・完全を見分ける基本です。
- そして、変化記号(♯や♭)が付いた場合の音程の幅の変化ルールを理解し、適用できるようにしましょう。
- 最後に、異名同音の概念を理解し、楽譜上の表記が音程を決定するというルールを覚えておきましょう。
最初は少し複雑に感じるかもしれませんが、繰り返し練習し、実際に音を聴きながら確かめることで、必ず感覚として身についていきます。
また、JBG音楽院では音程に関する解説動画をYouTubeにアップしています。
実際の音や楽譜と一緒に見るとより理解が深まるので、ぜひご覧になってください。
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