
【DTM連携編】楽器演奏の「揺らぎ」と「呼吸」をMIDIデータに吹き込むプロの打ち込みテクニック
「DTMで打ち込んだ演奏が、どうしてものっぺりとして機械っぽく聴こえてしまう…」「生演奏のような人間味あふれるグルーヴ感を出したいけど、どうすればいいか分からない」「ベロシティやタイミングを調整しろって言われるけど、具体的に何をすればいいの?」そんな悩みを抱えていませんか?DAWでの打ち込みは正確で便利ですが、そのままだと音楽が持つべき生命感が失われがちです。しかし、ご安心ください。楽器演奏特有の、機械では再現しきれない微妙な強弱のニュアンス(ベロシティ)、リズミカルな「揺らぎ」(グルーヴ)、そしてフレーズの「呼吸感」(アーティキュレーション)を、MIDIデータで巧みに表現するためのプロの打ち込みテクニックを解説します。この記事を読めば、DAWの機能を最大限に活用し、あなたの打ち込み作品に生演奏のような人間味あふれる生命感を吹き込む方法がわかります。JBG音楽院のDTAMという考え方にも通じる、重要なスキルを身につけましょう。
なぜDTMの打ち込みに「人間味」が重要なのか?機械的な演奏からの脱却
DAWのクオンタイズ機能を使えば、誰でも完璧に正確なリズムで演奏データを作成できます。しかし、音楽の魅力は必ずしも「完璧な正確さ」にあるわけではありません。むしろ、人間が演奏するときに自然に生じる、わずかなリズムの揺れや、一音一音の強弱の違い、音の繋ぎ方のニュアンスこそが、リスナーの心を揺さぶる「グルーヴ」や「感情表現」を生み出します。
機械のように均一で無機質な演奏は、聴き手にとって退屈で、心に響きにくいものになりがちです。「DTMでの打ち込みに人間味を加える」とは、この人間特有の「揺らぎ」や「呼吸」を意図的にMIDIデータに反映させ、あたかも名プレイヤーが演奏しているかのような生命感を楽曲に与える作業なのです。これは、デジタルとアナログの融合を重視するJBG音楽院のDTAM(Desktop and Analog Musicの略で、DAWを中心としたデジタル技術とアナログ楽器の演奏・録音技術双方を重視する考え方)という理念を、DTM上で体現する非常に重要なテクニックと言えるでしょう。そもそも、なぜ楽器演奏のニュアンスを理解することが重要なのかについては、当音楽院のブログ記事である「作曲における楽器演奏のリアルな重要性:DTMだけでは到達できない表現力とは」でも詳しく解説しています。

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生命感を吹き込む3大要素:ベロシティ、タイミング、アーティキュレーション
打ち込みに人間味を与えるためには、主に3つの要素をコントロールすることが重要です。この3つを意識するだけで、あなたのサウンドは劇的に変わるはずです。
1. ベロシティ:音の強弱で生み出すダイナミクス
ベロシティは、MIDIノート一つひとつの「音の強さ」を0から127の数値で表したものです。これは単なる音量(ボリューム)とは異なり、多くのソフトウェア音源では、ベロシティの値によって音色そのものが変化します(例:ピアノを弱く弾いた時の柔らかい音、強く弾いた時の硬く明るい音)。このベロシティを細かく調整することで、楽曲にダイナミクス(強弱の幅)と感情の起伏を生み出すことができます。
2. タイミング(クオンタイズ):機械的な正確さからの解放
DAWのクオンタイズ機能は、入力したMIDIノートのリズムを正確なグリッド(拍の位置)に補正してくれる便利な機能ですが、100%正確なリズムは時に機械的に聴こえます。人間の演奏には、意図的か無意識的かに関わらず、必ず微妙なタイミングのズレがあります。この「ズレ」こそが、音楽の「グルーヴ」や「ノリ」の正体です。クオンタイズ機能に頼り切るのではなく、その強度を調整したり、手動でノートを微調整したりすることで、生演奏のようなリズミカルな揺らぎを作り出せます。
3. アーティキュレーション:音の繋がりと表情
アーティキュレーションとは、音の演奏法に関する指示の総称で、音の表情や繋がりに大きな影響を与えます。例えば、音を短く切る「スタッカート」、滑らかに繋ぐ「レガート」、音を十分に保つ「テヌート」などがあります。MIDIデータでは、主にノートの長さ(デュレーション)を調整することで、これらのニュアンスを表現します。音と音の間の「隙間」をコントロールすることで、フレーズに人間らしい「呼吸感」を与えることができるのです。
実践テクニック①:MIDIベロシティ調整で躍動感を生む
それでは、具体的にベロシティをどう調整すれば良いのでしょうか。パートごとの基本的な考え方をご紹介します。
メロディラインに「息遣い」を与えるベロシティカーブ
一本のメロディラインの中でも、全ての音を同じ強さで演奏することはありません。一般的に、フレーズの中の最も高い音や、長い音符に向かって少しずつベロシティを上げていき、フレーズの終わりに向かって下げていく「山なりのカーブ」を意識すると、自然な息遣いや抑揚が生まれます。
コード演奏に深みを与えるベロシティのばらつき
ピアノやギターでコードを弾く際も、全ての構成音を全く同じ強さで同時に弾くことは稀です。例えば、コードの一番高い音(トップノート)を少し強くしたり、各構成音のベロシティにわずかな差をつけたりするだけで、響きに深みと立体感が生まれます。全ての音を均一にするのではなく、意図的に「ばらつき」を持たせることがポイントです。
ドラムのグルーヴを決定づけるベロシティの強弱パターン
ドラムの打ち込みにおいて、ベロシティの調整はグルーヴを決定づける最重要項目です。8ビートのハイハットであれば、表拍を強く、裏拍を少し弱くするだけで、自然な躍動感が生まれます。また、スネアドラムの装飾的な小さな音(ゴーストノート)を非常に低いベロシティで入れることで、ファンキーでグルーヴィーなリズムパターンを作ることができます。
実践テクニック②:楽器のグルーヴをDTMで再現するためのタイミング調整
次に、リズムの「揺らぎ」を生み出すタイミング調整のテクニックです。DAWのクオンタイズ機能を上手く使いこなしましょう。
クオンタイズは「補助輪」:100%に頼らない使い方
リアルタイムでMIDIキーボードを演奏して入力した場合、クオンタイズを100%の強度でかけると、せっかくの演奏のニュアンスが失われてしまいます。DAWによっては、クオンタイズの強度(適用率)を調整できる機能があります。これを80%~95%程度に設定することで、大きなリズムのヨレは修正しつつ、人間的な微妙な揺らぎは残す、といった絶妙なバランスを実現できます。
スウィング機能で跳ねるリズムを作る
ジャズ、R&B、ヒップホップ、ハウスなど、多くのジャンルでは、8分音符や16分音符が均等ではなく、少し「跳ねた」リズム(スウィング、シャッフル)で演奏されます。多くのDAWには、このスウィングの度合いを調整する機能が搭載されています。この機能を活用することで、簡単にリズミカルなノリを生み出すことができます。
手動での微調整:「前ノリ」と「後ノリ」の演出
より高度なテクニックとして、特定のパートのタイミングを手動で微調整する方法があります。例えば、スネアドラムやベースをジャストのタイミングよりわずかに後ろにずらす(レイドバックさせる)と、ゆったりとした「後ノリ」のグルーヴが生まれます。逆に、ハイハットなどを少し前にずらすと、疾走感のある「前ノリ」のグルーヴを演出できます。
実践テクニック③:DAWのヒューマナイズ機能とアーティキュレーション
最後に、より人間味あふれる演奏を再現するための便利な機能や、音の表情を司るアーティキュレーションについてです。
DAWのヒューマナイズ/ランダマイズ機能の賢い使い方
多くのDAWには、選択したMIDIノートのベロシティやタイミングに、自動でランダムな変化を加える「ヒューマナイズ」機能が搭載されています。これは非常に便利な機能ですが、注意が必要です。かけすぎると、単に演奏が下手に聴こえてしまったり、意図しないリズムのヨレが生じたりすることがあります。あくまで味付け程度に、パラメータを控えめに設定して適用するのが賢い使い方です。
ノートの長さ(デュレーション)で「呼吸感」を表現する
MIDIノートの長さを調整することは、アーティキュレーションを表現する上で非常に重要です。ノートの終端を次のノートの始点より少し手前で切ることで、歯切れの良いスタッカートのニュアンスが生まれます。逆に、ノートの終端を次のノートの始点にぴったりと合わせたり、少しだけ重ねたりすることで、滑らかに繋がるレガートの表現が可能になります。この音と音の間の「間(ま)」が、フレーズ全体の呼吸感を生み出します。
キースイッチを活用した高度なアーティキュレーション
高品質なストリングス音源や管楽器音源などには、「キースイッチ」という機能が搭載されていることが多くあります。これは、MIDIキーボードの特定のキーを押すことで、スタッカート、レガート、ピチカート、トリルといった様々な奏法をリアルタイムに切り替えられる機能です。この機能を使いこなすことで、打ち込みとは思えないほどリアルで表現力豊かな演奏データを作成することができます。
JBG音楽院で学ぶ、デジタルとアナログを繋ぐ打ち込み技術
JBG音楽院では、このようなMIDI打ち込みにおける音楽的表現力の向上を非常に重視しています。なぜなら、DAWを深く使いこなすスキルは、作曲家にとって必須の能力だからです。これらのテクニックは、当音楽院のブログ記事である「【DTMスキル編】プロ作曲家が最低限マスターすべきDAWの必須機能と実践練習法」で解説しているDAWスキルの、より高度で実践的な応用編と言えるでしょう。

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私たちのカリキュラムでは、単にDAWの操作方法を学ぶだけでなく、プロの現場で通用する「音楽的な打ち込み」の技術を、課題制作と講師からのフィードバックを通じて徹底的に鍛えます。どうすれば機械的な演奏から脱却できるのか、その具体的なノウハウを、一人ひとりのレベルに合わせて丁寧に指導します。
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まとめ:あなたの打ち込みに「魂」を吹き込もう
楽器演奏特有の「揺らぎ」と「呼吸」をMIDIデータに吹き込むための、プロの打ち込みテクニックについて解説してきました。ベロシティ、タイミング、アーティキュレーションという3つの要素を意識的にコントロールすることで、あなたの打ち込み作品は、まるで生演奏のような人間味あふれる生命感を宿すことができます。DAWの機能を最大限に活用し、ただ正確なだけでなく、聴き手の心に響く音楽を目指しましょう。
JBG音楽院が重視するDTAMの理念の通り、デジタルツールを深く理解し、そこにアナログ的な感性やニュアンスを注ぎ込むこと。これこそが、これからの作曲家に求められる重要なスキルです。まずは今日、あなたが過去に打ち込んだMIDIデータを開き、ベロシティを一つひとつ見直すことから始めてみてください。その小さな一歩が、あなたの作品に「魂」を吹き込む大きな変化に繋がるはずです。
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